研究成果

ミリ波の伝播をリアルタイム制御し、高効率なプラズマ加熱を実現

電子サイクロトロン加熱用のミリ波入射系をリアルタイム制御するシステムを開発し、大型ヘリカル装置(LHD)の時々刻々変化するプラズマに対して最適入射することで、プラズマを高効率加熱できることを示しました。またこの制御系を利用して、高電子温度運転や高密度運転の性能向上に成功しました。この成果は高パワー・長時間運転時の高効率加熱の維持だけでなく、核融合プラズマの性能を評価する輸送研究の高精度化にも貢献します。

image
ジャイロトロンから出力される高パワーのミリ波に対して、磁場配位やプラズマの電子密度・温度に対して加熱効率を最大化するように、リアルタイム制御系を用いて、伝送系内のミラーアンテナや偏波を回転制御しました。また不適切な入射条件の場合に、インターロックによりジャイロトロンの発振出力を制御しました。

核融合発電では、プラズマを点火したり、プラズマを安定制御したりするための外部からの加熱入力が必要になります。ミリ波帯の高パワー発振管(ジャイロトロン)を用いて、プラズマを加熱する電子サイクロトロン(EC)加熱は将来の核融合炉で有望視されている外部加熱法の一つです。EC加熱電力をプラズマ中の狙った位置に効率良く吸収させることは、プラズマの高性能化や、吸収されず真空容器内を漂う漏洩波によるプラズマ真空容器内部品の損傷防止に有効です。また高効率化はプラズマの閉じ込め性能を評価する輸送研究の高精度解析にも重要です。

本研究では、FPGAと呼ばれるプログラムにより書き換え可能なデジタル回路を用いて、EC加熱用ミリ波入射系をリアルタイム制御するシステムを開発しました。そして時々刻々変化するLHDプラズマの電子密度・温度分布に合わせて、ミリ波の伝搬計算を通して、効率良く加熱できるようにしました。プラズマ中を伝播するミリ波は屈折の効果によって曲がります。電子密度が高くなり、密度勾配が大きくなるほど曲がりやすくなります。本研究では、できるだけプラズマ中心を加熱できるように、ミリ波入射系のミラーアンテナの角度を回転制御しました。また加熱がしやすい偏波(ミリ波の振動電場の向き)になるようにミリ波入射系の偏波器の角度も回転制御しました。その結果、制御しない場合に比べて、高密度領域でも高効率加熱が維持できることを示しました。

ところでこれまでLHDではその3次元的な磁場配位の複雑さや付随する真空容器内壁の構造により、本質的に曲がりにくい入射法である垂直入射を実施することは困難でした。そこで本研究で開発した制御系を用いることで、プラズマに吸収が十分見込まれる場合のみ、高パワーのミリ波を入射するインターロックを実装しました。この改善により、LHDプラズマの高電子温度運転性能や高密度運転性能を高めることに成功し、輸送研究などの物理実験のプラズマパラメータ領域拡大に貢献しました。

今後は深層学習を用いたり、プラズマパラメータに関するより詳細な分布情報を用いたりして、より高度化したAI制御系を構築する予定です。EC加熱制御に留まらず、核融合発電の運転制御法の確立は重要な課題の一つです。核融合科学分野以外の最新技術もうまく取り入れながら、今後さらに発展させていきます。

本研究は、核融合科学研究所の辻村亨助教らの研究グループと京都大学エネルギー理工学研究所の大島慎介助教との協力によって進められ、EC加熱用ミリ波入射制御系の開発と高効率加熱の実証に関する成果が、核融合工学に関する国際的な学術論文誌「フュージョン・エンジニアリング・アンド・デザイン」に2020年1月23日付けで掲載されました。また、その制御系を利用して垂直入射によるLHDプラズマ性能向上を達成した成果は、国際原子力機関が刊行する学術論文誌「ニュークリア・フュージョン」に2020年12月22日付けで掲載されました。

論文情報