磁力線の結び目に集中するプラズマの発光を解明
大型ヘリカル装置のプラズマを新たに開発した数値シミュレーションコードによって計算した結果、プラズマの発光がX点とよばれる磁力線の結び目に集中して起こること、およびそのメカニズムが宇宙の星の形成過程で起こっている熱的不安定性と呼ばれる過程と同じメカニズムであることが解明されました。この成果によって将来の核融合装置の磁力線構造を最適化することでプラズマの発光を制御する研究が大きく進展することになります。
核融合炉では、磁力線を用いて高温のプラズマを閉じ込めます。プラズマは磁力線に沿った方向に非常に速く動くため、その挙動は磁力線の構造に強く影響されます。逆に言えば、磁力線の構造をうまく工夫することによってプラズマを制御できる可能性があり、様々な装置で磁場構造を最適化する研究が行われています。特に、外部から特徴的な波長をもつ磁場(共鳴摂動磁場と呼ばれる)を加えることにより磁場構造のトポロジーを大きく変化させることができます。図に示すように、このようにしてできた磁場構造は「磁気島」と呼ばれ、閉じ込め磁場に対して千分の一程度の非常に小さな外部磁場でつくることができます。磁気島には図に示すようにX点とO点と呼ばれる特徴的な構造ができ、この構造は核融合装置ではしばしば現れます。また、このような構造が現れた場合に、プラズマの発光がX点に集中して起こることが様々な装置で観測されています。
今回の研究では、その原因を調べるために新たにシミュレーションコードを開発し、プラズマの挙動を詳しく調べました。シミュレーションコードには磁気島の構造が精確に取り込まれ、また時間的に急激に変化するプラズマの挙動を計算することができるようになっています。その結果、磁気島構造ができると、O点からX点に向かうエネルギーの流れが発生し、これによってプラズマ粒子の流れも形成され、光を放出する粒子がX点に集中していく様子が明らかになりました。X点からの発光はプラズマのエネルギーが光に変換されて出てくるため、結果としてX点の温度が下がります。するとさらに点からX点に向かうエネルギーの流れが促進され、これによって粒子の流れも加速され、X点での密度がどんどん上昇していきます。プラズマの発光は密度に比例して大きくなるため、このようなフィードバック作用が働くことにより、ますますX点から発光が起こり冷却されるという過程が明らかになりました。このようなメカニズムは熱的不安定性とよばれ、宇宙空間の星間媒質で星が形成されるときにも起こっていることがわかっており、今回のシミュレーションによって、核融合プラズマと宇宙のプラズマに同じメカニズムが働いていることが見出されました。また、このような不安定性が成長する時間スケールは10 ms程度であり、磁力線構造を変化させるとその時間スケールも変わることがわかりました。
今回の研究から磁場構造とプラズマの発光すなわち冷却の分布形成とその時間スケールが明らかになったことから、今後の核融合装置の磁場構造の最適化にむけて重要な知見を得ることができました。
本研究は、核融合科学研究所の小林政弘らの研究グループとドイツのデュセルドルフ大学のミハイル・Z・トカール博士との協力によって進められ、プラズマ物理学に関する国際的なオンライン学術論文誌「コントリビューションズ・トゥ・プラズマ・フィジックス」に2020年1月29日付けで掲載されました。