研究成果

プラズマ中のホウ素の粒子の振舞いを自己矛盾なく計算できる解析手法を新たに開発!

プラズマ中に落下したホウ素の固体粒子(ダスト)の振舞いを自己矛盾なく計算できる新しい解析手法を開発しました。プラズマ中に入ったホウ素は電離してホウ素イオンになります。このホウ素イオンはダイバータレッグと呼ばれる場所を経由してプラズマの外に流れ出てきます。当初、この流れの効果によってダストの軌道はトーラスの外側向きに曲がると予想されましたが、本手法による解析によって実際は内側に曲がることが明らかになりました。

image
図1.ホウ素のダストの軌道を計算するために用いたLHDの真空容器壁の3次元モデル。ダストが落下する際の典型的な周辺プラズマ密度分布の断面図が示されている。
image
図2.ダスト輸送シミュレーションコードによって求められたダストの軌道の計算結果(図1の灰色の破線で囲まれた領域)。ダストが蒸発によって消滅した位置が中抜きの丸で示されている。ホウ素のダストの落下率が増加するに伴って、ダストが消滅する位置がトーラス内側に移動している。
image
図3.ダストの落下率を変化させた場合のダイバータレッグ部におけるプラズマ流の速度分布の計算結果。ダストの落下率が大きくなるにつれて、流束が低下するとともに、ダストの落下軌道のトーラス外側への曲がりが低下している。

大型ヘリカル装置(LHD)では、プラズマ中にホウ素の小さな固体粒子(ダスト)を落下させる実験が行われています。プラズマ中にダストが入るとプラズマの熱によってダストは溶けた後、蒸発します。これはプラズマにとっては不純物源となることから、ダストの蒸発位置を精確に予測することは重要な研究課題です。

ダストの蒸発位置を予測するためには、自己矛盾しないダストの軌道解析が必要です。ダストから蒸発した不純物原子はプラズマ中でイオン化します。この不純物イオンはダイバータレッグ部を経由してプラズマの外に流れ出ます。このダイバータレッグ部の不純物イオンの流れによってダストの落下軌道が曲げられます。それに伴ってダストが蒸発する位置が変化します。つまり、ダストから放出された不純物自身が自らのイオン化位置を決めることになります。この理由から、自己矛盾することなくダストの3次元軌道を計算できる新しい解析手法を開発しました。以下、この手法について順に説明します。①周辺プラズマコード(EMC3-EIRENE)によって、ある特定の実験条件におけるプラズマ中の各パラメータ(イオン・電子温度、密度など)の3次元分布を求めます。②ダスト輸送シミュレーションコード(DUSTT)を使用して、ダストを落下させた場合のダストの3次元軌道と不純物原子の発生率の分布を求めます。③ダストから発生した不純物原子の分布から、プラズマ中の不純物イオンの密度とその流れの分布をEMC3-EIRENEによって計算します。④不純物イオンによってプラズマから放射されるエネルギー分布を計算し、これを考慮してプラズマ中の各パラメータの3次元分布を再び計算し直します。⑤新たに計算されたプラズマ中の各パラメータ分布および③で求められた不純物イオン分布とその流れの効果を考慮して、ダストの軌道と不純物原子の発生率を再び計算します。その後、④と⑤の計算を何回か繰り返すことによって、ダストの軌道と各プラズマパラメータ分布の双方にとって矛盾のない計算結果を求めます。

この手法をLHDのプラズマ中にホウ素のダストを落下させた場合の解析に用いたところ、当初の予想とは異なる計算結果を得ました。図1は、解析に用いたLHD真空容器モデルです。ここでは、ダイバータレッグの直上(図中の黄色い丸点)からダストを落下させました。今回はダストの落下率(1秒あたりに落下する原子数)を変化させた場合のその軌道の変化に着目しました。ダストによって、プラズマ中でホウ素のイオンが作られて、ダイバータレッグ部を経由してプラズマの外に流れ出ます。ダストが横切るダイバータレッグ部では、プラズマ(水素イオン)の流れはトーラスの外側向きなので、ホウ素イオンの流れも外側向きになります。このホウ素イオンの流れはダストの軌道を外側に曲げる効果があり、それはダストの落下率とともに大きくなると予想されます。

ダストの落下率を変化させた場合におけるダストの軌道と蒸発位置(ダストの消滅位置)の計算結果を図2に示します。ダストの落下率が大きくなるとともに、消滅位置がトーラスの内側方向に移動しています。これは当初の予測とは異なる振る舞いです。この理由は以下のように説明されます。①プラズマ中に入ったダストはホウ素イオンを発生させ、それによる放射によって周辺プラズマの温度が低下します。②周辺プラズマの温度の低下に伴ってダイバータレッグ部のプラズマの温度も低下します。③プラズマの流れの速度はプラズマの温度の1/2乗に比例するので、流れの速度は温度とともに低下します。④流れの速度の低下に伴って、ダイバータレッグ部でのトーラス外側向きへのダストの軌道の曲がりは小さくなり、ダストの消滅位置はトーラス内側に移動します。上記の過程はダストの落下率が大きくなるほど顕著になります(図3参照)。なお、ダストの落下率が最も高い場合であっても、ホウ素イオンの流れがダストの軌道に直接及ぼす効果はプラズマの流れと比較すると非常に小さいことが分かりました。

以上のように、周辺プラズマコードとダスト輸送コードを相互に連携させることによって、当初の予想と逆の結果を導くことができました。今後は、この解析結果が実際のプラズマで再現されるのか検証したいと考えています。

この研究は核融合科学研究所の庄司 主と河村学思と増崎 貴、カリフォルニア大学のロマン・スミルノフ、金沢大学の田中康規、プリンストンプラズマ物理研究所のフェデリコ・ネスポリ、エリック・ギルソン、ロバート・ランスフォードとの協力によって進められました。

この研究成果は、米国の英文論文誌「コントリビューションズ・トゥ・プラズマ・フィジックス」に2024年2月29日付けで掲載されました。

論文情報