研究成果

プラズマ乱流が担う「熱輸送」と「非局所結合」の二つの役割を実験的に解明
- 高精度計測により、乱流の二重機能を世界で初めて同定 -

大型ヘリカル装置(LHD)において、プラズマ中の乱流が熱輸送において果たす二つの異なる役割を実験的に明らかにした。高時間・高空間分解能計測により、乱流※1が熱を実際に輸送する局所成分と、離れた領域を瞬時に結びつける非局所成分として同時に存在することを直接観測した。特に、短時間加熱により励起される非局所乱流が、プラズマ全体の高速な熱応答を媒介することを示した。本成果は、非局所熱輸送の物理機構を明確化するとともに、将来の核融合炉における広域熱制御の基盤となる重要な知見を提供する。

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図1. プラズマ乱流が担う二つの役割の模式図
(上)非局所結合を担う乱流(メディエータ)の概念図。中心部への局所的な加熱により励起された低周波・広域的な乱流が、半径方向に離れた領域間を短時間で結びつけ、プラズマ全体に同時的な応答をもたらす様子を、選手同士が連携してボール(熱)を素早く受け渡す動作として表現している。これは、熱そのものの輸送ではなく、遠隔領域間の非局所結合を媒介する乱流の役割を示している。(下)局所熱輸送を担う乱流の概念図。温度勾配により駆動される乱流が、時間をかけて半径方向外側へと広がり、熱を実際に輸送する過程を、選手がボール(熱)を保持したまま前進する動作として表している。プラズマの最終的な温度分布は、この局所輸送過程によって形成される。

核融合発電の実現には、強磁場中に閉じ込めた高温プラズマを安定に維持し、中心部の熱を効率よく保持することが不可欠である。プラズマ中では、密度や温度勾配を起源とする乱流が常に励起されており、これが熱輸送を支配する主要因となる。そのため、乱流による熱輸送の性質を理解し、予測・制御することは、核融合炉設計における重要課題の一つである。

従来の輸送理論では、乱流による熱輸送は主として局所的(local)な過程として扱われ、熱は中心から周辺へと拡散的に伝播すると考えられてきた。一方、実験では、局所的な加熱にもかかわらず、プラズマ全体が非常に短時間で応答する現象が繰り返し観測されており、非局所的(nonlocal)な熱伝播の存在が示唆されてきた。しかし、その物理機構は長年にわたり明確ではなかった。

本研究では、大型ヘリカル装置(LHD)において、プラズマ中心部に短時間の加熱パルスを与える実験を行い、電子温度および乱流揺動の時間発展を、高時間・高空間分解能を有する複数の電磁波計測手法※2により同時に観測した。その結果、熱伝播過程において性質の異なる二種類の乱流成分が存在し、それぞれが異なる役割を担っていることを実験的に明らかにした。

加熱直後には、プラズマ全体をほぼ同時に結びつけるような低周波・広域的な乱流成分が立ち上がり、半径方向に離れた領域間において、100マイクロ秒以下という極めて短い時間で相関が形成されることが確認された。この乱流成分は、局所的な熱輸送そのものを担うのではなく、遠隔領域間の応答(非局所結合)を媒介するメディエータとして機能していると解釈される。

その後、従来よく知られている勾配駆動型の乱流が成長し、実際に熱を半径方向外側へと輸送することで、プラズマ全体の温度分布が形成されていく。すなわち、乱流は

  • プラズマ全体を瞬時に結びつけるメディエータの役割(非局所乱流)
  • 熱を実際に輸送する役割(局所乱流)
という二つの異なる機能を、時間的に共存させながら担っていることが明らかとなった。これら二つの乱流の役割の関係を、図1に模式的に示す。

さらに、加熱パルスの時間幅を短くするほど、非局所結合を担う乱流成分が顕著に強まり、熱の広域伝播がより高速化することも確認された。これは、外部から与えられる摂動の時間スケールが、非局所輸送の発現に重要な役割を果たしていることを示している。

本成果は、磁場閉じ込めプラズマにおいて、局所乱流と非局所乱流が同時に存在し、それぞれ異なる役割を担うことを高精度計測により直接観測した世界初の研究である。本研究により、非局所熱輸送の実体が明確化され、将来の核融合炉における広域熱応答の予測・制御に向けた重要な物理的基盤が与えられた。

今後は、この非局所結合を担う乱流成分の生成条件や制御手法を体系的に明らかにすることで、熱輸送を意図的に抑制・調整する新たなプラズマ制御手法の開発が期待される。また、本研究で示された「遠隔領域の同時応答を媒介するメディエータ」という概念は、プラズマに限らず、流体、地球環境、材料中のエネルギー伝達など、広範な非線形系に共通する普遍的現象としての展開も期待される。

この研究成果は、物理学分野のオープンアクセス学術論文誌「コミュニケーションズ・フィジックス」に2025年12月10日付けで掲載された。

論文情報

プレスリリース

プラズマ中の乱流の「一人二役」を発見 - 高精度観測で、乱流が「熱の運搬役」と「熱のつなぎ役」の2つの役割を持つことを世界で初めて明確化 –

用語解説

※1 乱流:プラズマの密度や温度に不均一性がある場合、それが駆動力となってプラズマ中の波が成長し、やがて流れや渦が作り出され、高温状態ではしばしばそれらが不規則に乱れた状態となる。この状態を乱流と呼ぶ。

※2 電磁波計測:熱と乱流の関係を調べるためには、それらがどれくらいの速さでプラズマ中を移動していくかを計測する高度な機器が必要である。LHDでは、プラズマの乱流と電子の温度と熱の流れを、様々な波長の電磁波を用いて計測する機器を開発してきた。これらは世界最高レベルの性能で、ミリメートルサイズの細かな乱流が変化する様子をマイクロ秒の間隔で計測できる。研究グループは、これらの計測機器を駆使して、2022年に高速に移動する乱流を発見し(以下参照)、今回、その成果を発展させて乱流の役割を明確にした。

関連情報:核融合科学研究所プレスリリース「高速で移動するプラズマ乱流を世界で初めて発見」(2022年5月19日)