研究成果

プラズマ閉じ込め性能を決める新たなメカニズムを発見
~大きい渦が小さい渦を引き伸ばしたり抑えつけたりしている~

サイズの異なる二つの揺らぎを同位置で同時観測できる高性能の乱流計測器を開発し、大型ヘリカル装置(LHD)の高温プラズマの微小な揺らぎの観察に適用しました。その結果、大きい乱流渦が、小さい乱流渦を引き伸ばしてその成長を抑えていることを発見しました。この二つの揺らぎの間で生じる相互作用のメカニズムは、プラズマの閉じ込め性能に大きな影響を与えると考えられ、将来の発電炉の性能を予測する上で大変重要な知見を得ることができました。

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図1.サイズの異なる二つの乱流の特性を調べるため、ミリ波散乱計測装置を設置した。青色の二つのアンテナは小さい乱流を二方向から同時に観測し、緑色のアンテナは同じ位置で大きい乱流を観測する。
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図2.大きい乱流渦が強いため小さい乱流渦は引き延ばされて弱い状態(A)から、大きい乱流渦が弱くなり小さい乱流渦が強く成長する状態(B)へ変化する。

核融合プラズマを効率よく閉じ込め、核融合発電に用いる大きなエネルギーを蓄えるための研究が世界中で精力的に進められています。プラズマの閉じ込め性能は、プラズマ中で発生する様々な大きさを持つ揺らぎ・乱流※1によって、プラズマのエネルギーやプラズマを構成する粒子の排出が引き起こされ、劣化することが知られており、この物理現象を理解して性能劣化を抑制することが求められています。世界中の実験装置で行われてきた高温プラズマの閉じ込め研究から、プラズマ中の様々な場所で発生する数センチメートル程度(ミクロサイズ)の乱流渦がこの閉じ込め性能の劣化に大きな影響を与えていることが分かってきました。そして、ミクロサイズの乱流を抑制することによって、性能が「ある程度」向上する※2ことがこれまでに知られています。しかしながら、なぜこれ以上の向上が達成されないのかは分かっていませんでした。また、将来の核融合発電炉においてミクロサイズよりもさらに小さい乱流がサイズの異なる乱流と相互作用しながら閉じ込めに影響を与えることは理論・シミュレーション研究から予見されており、実験で確かめることが期待されていました。しかし、そのような小さいサイズの乱流の観測には非常に高い計測技術が求められるためこれまで検証されていませんでした。

本研究グループは、二種類の異なるサイズの乱流の特性を調べるために、それぞれの乱流渦の大きさに適合した乱流計測器※3を開発し、大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマの中の同じ位置を同時に観測し、それぞれの乱流強度がどのように変化するのかを調べました。特に小さい乱流渦に対しては二方向から同時に観測することで、乱流渦の引き伸ばし度の変化も捉えられるようにしました。乱流渦の引き伸ばし度を調べることで、その位置にあるプラズマに作用している力の状態を知ることができます。

LHDプラズマを観測した結果、大きい乱流の強度が突然減少すると、小さい乱流の強度は増大することを発見しました。さらに、小さい乱流渦の引き伸ばし度が弱くなっていることがわかりました。これは、大きい乱流渦が発生させる電場の力によって小さい乱流渦が引き延ばされたというモデルで説明できます。すなわち、大きい乱流が強いことで引き伸ばされ抑制されていた小さい乱流が、大きい乱流が弱くなったことで成長し始めるというメカニズムが働いていると考えられます。そして、この小さい乱流の成長が、これまで謎であったミクロサイズの乱流(本研究では大きい乱流のこと)が減少しても閉じ込め改善が「ある程度」までで留まってしまう要因ではないかと推測されました。

日本も国際協力で参画しているITER※4で実現される核燃焼プラズマは、核融合反応で発生したアルファ粒子によるプラズマ加熱機構が主となり核融合反応が続く、いわゆる自己点火条件を維持するプラズマであることが期待されています。そのような状態では、本研究で観測した小さい乱流渦がより強く励起され、プラズマの閉じ込めに大きな影響を与えると考えられています。世界中で小さい乱流の実験検証が活発化し始めていますが、我々の研究グループはこの問題を早くから認識し計測手法の開発を先駆して進めたことにより、乱流の応答を知るだけでなく、乱流渦の引き伸ばし度を検証できるような計測手段を編み出すことに成功し、今回の世界初の発見につながりました。

核融合炉開発の観点では、今回発見した小さい乱流と大きい乱流が影響し合うことの実験観測例が初めて得られたことから、シミュレーション計算で用いている理論モデルの検証が可能となりさらなる高精度化が進展すると期待されます。そして、そのような理論モデルを基に運転がなされる将来の核融合炉の性能向上へと繋がっていくと期待されます。学術的な観点からは、サイズの異なる様々な乱流の間の相互作用や突発的な乱流渦の構造変化は、実験室の核融合プラズマだけでなく宇宙プラズマでも議論されており、今回LHDで得られた高温プラズマでの詳細な実験観測結果は、他分野のプラズマ物理の理解にも貢献すると期待できます。

本研究は、核融合科学研究所の徳沢季彦教授、居田克巳特任教授、総合研究大学院大学博士課程の那須達丈さん、京都大学の稲垣滋教授らの研究グループによって進められました。

この研究成果は、物理学分野のオープンアクセス学術論文誌「コミュニケーションズ・フィジックス」に10月6日に掲載されました。また、第30回国際原子力機関(IAEA)核融合エネルギー会議にて10月15日に発表されました。

論文情報

用語解説

※1 プラズマ乱流:プラズマの温度や密度の空間不均一性がもたらす揺らぎ。原因となる要素の種類によって様々な大きさの揺らぎが発生する。今回着目した揺らぎの大きさは、プラズマを構成する電子やイオンなどの荷電粒子が閉じ込め磁場に巻き付く特徴的な大きさ程度で、数10マイクロメートルから数センチメートル程度の大きさ。

※2 閉じ込め性能向上:プラズマ中で自然発生する電場の強い不均一性に由来するシア流によって、ミクロサイズの乱流が抑制されるH-modeと呼ばれる良い閉じ込め性能のモードが知られている。しかしその性能向上の限界は何で決定されているのか、という謎についてはまだ議論が続いている。

※3 乱流計測器:本研究では、ミリ波とマイクロ波を光源として用いた散乱計測法を用いて小さい乱流渦と大きい乱流渦の観測を行った。これらの電磁波を用いた計測手法は、プラズマに接触することなく微細な変化を観測することができる。今回は新たに金属レンズを用いた特殊なアンテナをLHDの真空容器内に設置したことで高精度での観測が可能となった。

※4 イーター(ITER):核融合反応で発生するアルファ粒子で自己加熱する核燃焼プラズマを研究する国際協力プロジェクトの磁場閉じ込め実験装置。フランスで現在建設中。