研究成果

LHDにおけるプラセオジム・ネオジム多価イオンの発光線同定

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大型ヘリカル装置(LHD)の高温プラズマで観測された、プラセオジム(Pr)とネオジム(Nd)の波長10〜13ナノメートル領域の発光スペクトル。両者は類似の構造を持ちますが、原子番号59のPrに対して、60のNdではその構造が短波長側にシフトしていることがわかります。

大型ヘリカル装置(LHD)の高温プラズマ中に、少量のプラセオジム・ネオジムを導入し、両元素の多価イオンからの極端紫外域における発光スペクトルを解析しました。最近報告された、電子ビームイオントラップ(EBIT)実験におけるネオジムの発光線リストをもとに、両元素のスペクトルの類似性と原子番号依存性から、プラセオジムの発光線も同定されました。そのうち何本かは初めて実験的に同定されたものです。

元素周期表で原子番号57から71までの15種の元素はランタノイドと呼ばれ、互いによく似た性質を示します。このような原子番号の大きな重元素が高温プラズマ中に混入すると、原子核の周りを周回する電子が多数剥がされた、価数の高いイオン(多価イオン)となります。ランタノイド元素の多価イオンからの発光スペクトルについては、過去の実験データがほぼ皆無の元素もあり、発光線のデータベースが十分に整備されていないのが現状です。

大型ヘリカル装置(LHD)は、高温・高輝度で安定したプラズマ生成が可能であることに加え、不純物入射装置や各種計測装置が充実しているため、重元素多価イオンの分光実験データの整備にも活用されています。ランタノイド元素についても系統的な観測が行われていますが、本研究では、原子番号59のプラセオジム(Pr)と、60のネオジム(Nd)に着目して、LHDで観測された極端紫外域の発光スペクトルの解析を試みました。

LHDのプラズマ条件において、ランタノイド多価イオンからの極端紫外スペクトルは、電子温度が低い場合は多数の発光線が密集した複雑な構造を示しますが、電子温度が高い場合は比較的少数の孤立したスペクトル線による離散的な構造に変化します。これは、電子温度の上昇とともに電離段階が進み、より単純な電子配置を持つ高価数のイオンが支配的となるからです。本研究では第一段階として、比較的単純な高温の場合のスペクトルを解析対象としました。

重元素多価イオンの分光研究は、電子ビームイオントラップ(EBIT)と呼ばれる基礎実験装置においても行われています。EBITでは、多価イオンを生成するための電子ビームのエネルギーを制御することで、価数が分離されたスペクトルが得られます。最近、米国国立標準技術研究所(NIST)のEBIT装置で得られた、ネオジム多価イオンからの極端紫外スペクトルの同定結果が報告されました。このEBITのデータとLHDのデータを比較することで、LHDで観測されたネオジムの3つの高価数イオンの遷移に対応する発光線14本を同定することができました。

ランタノイドの発光スペクトルは互いに類似の構造を持ちますが、原子番号が大きくなるにつれてその構造が短波長側にシフトしていきます。この性質を利用して、EBITのデータが存在しないプラセオジムのイオンについても、同種イオンの同一遷移に対応する発光線を容易に同定することができました。プラセオジムについては、今から30年以上前に米国のTEXTトカマク装置における観測例がありますが、LHDではさらに新たな発光線4本を同定することができました。また、TEXTで同定済みの発光線についても、より精度の高い波長の値を得ることができました。今回の結果は、他の元素を含む一連の原子番号依存性の解析における基礎データになるとともに、今後のさらなるスペクトル線の発見にもつながることが期待されます。

本研究は、核融合科学研究所の鈴木千尋、村上泉らの研究グループと上智大学の小池文博との協力によって進められ、この研究成果は、C. Suzuki et al., "Spectra of Ga-Like to Cu-Like Praseodymium and Neodymium Ions Observed in the Large Helical Device", Atoms9 (2021) 46.として、学術論文誌「Atoms」に2021年7月14日付けで掲載されました。