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LHD研究の進展

核融合発電の実現を目指して、高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究が世界中で行われています。核融合科学研究所の大型ヘリカル装置(LHD)では、2017年より重水素ガスを用いてプラズマを生成する「重水素プラズマ実験)を行っており、核融合条件の1つであるイオン温度1億2000万度を達成しています。さらにLHDでは、将来の核融合発電で用いられる、水素同位体の「重水素」と「三重水素」の混合プラズマを模擬して、「重水素」と「軽水素」の水素同位体混合プラズマの実験も行っています。この実験により、混ざり合う水素同位体を世界で初めて観測するなど、今後の核融合研究の基盤となる成果を挙げてきました。

核融合発電の実現には、このような高温のプラズマを長時間にわたって安定して維持することが必要であり、この安定維持に向けた多くの課題があります。磁場で閉じ込めたプラズマは、核融合反応を起こす中心部は1億度以上の高温を維持する一方で、周辺部のプラズマは、プラズマを閉じ込める装置の壁への熱負荷を減らすために、できるだけ低温にすることが求められます。この温度勾配は、約1メートルで1億度という極めて急峻なものです。温度勾配が急峻になるとプラズマ中に大小様々な渦を伴った乱流が発生し、この乱流がプラズマをかき混ぜて中心温度が低くなってしまいます。また、プラズマの圧力勾配が急峻になるとプラズマが不安定になり、閉じ込めたプラズマの一部が失われることもあります(この現象を不安定性と呼びます)。このため、プラズマの安定維持のためには、乱流と不安定性を理解し、それを制御する方法を確立することが必要です。

2020年度のLHD重水素プラズマ実験で、電子温度・イオン温度共に1億度に達するプラズマの生成に成功しました。これまで、イオン温度1億度以上のプラズマは電子温度が低く、今回の成功によって、1億度に達するプラズマの生成法を確立することができました。これにより、LHDの研究は新たな段階に入りました。

LHDで達成されたイオン温度と電子温度

重水素と軽水素の水素同位体混合プラズマの物理実験によって、プラズマの安定維持を阻害する乱流と不安定性について、新たな発見がありました。乱流に関しては、プラズマの中心部と周辺部で全く異なる制御を必要としていることを見出しました。プラズマ中心部では、乱流を小さくすることで急峻な温度勾配の形成ができるのに対し、周辺部では、乱流を大きくすることで、装置への熱負荷が減ることがわかりました。したがって、プラズマ中心部で乱流を抑制し、周辺部では逆に増大させるという制御が望ましいとことが明確になりました。核融合にとってマイナス面が強調されてきた乱流に、プラス面があることを実験で明らかにしました。圧力勾配が急峻になると発生するプラズマの不安定性には、緩やかに現れて持続するものと、突然現れるものがあります。突然現れる不安定性は、地震のように「いつ起こってもおかしくないが、いつ起こるかわからない」という性質を持っています。この突発型については、「きっかけ」と「プラズマへの影響」の解明に、重要な実験結果が得られました。

プラズマの乱流と不安定性に関する物理実験により、将来の核融合プラズマの乱流と不安定性の制御法の開発につながる重要な知見を得ることができました。乱流や突発型不安定性は、核融合プラズマだけでなく、宇宙や地球で生起する様々な現象にも深く関わっていると考えられています。今後、LHDでは、そのような学際的な研究も推進していく予定です。

研究成果はhttps://www-lhd.nifs.ac.jp/pub/Science.htmlで公開しています。