研究成果

高速で移動するプラズマ乱流を世界で初めて発見

大型ヘリカル装置(LHD)において、プラズマ中で熱が逃げていく際に、熱よりも速く移動していく乱流を世界で初めて発見し、核融合プラズマの乱流の理解に新たな知見を与えました。この乱流の特性は、プラズマの温度変化の予知を可能にするものであり、今後、乱流を観測することで、プラズマの温度をリアルタイムで制御する手法の開発が期待されます。


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(左)プラズマ中に内部輸送障壁を形成し、熱を内側に閉じ込める。(右)内部輸送障壁を壊すことで、プラズマの内側から熱が逃げていく際に、熱よりも速く移動していく乱流を発見した。

核融合発電を実現するためには、1億度以上のプラズマを磁場で安定に閉じ込めて長時間維持することが必要です。ところが、磁場で閉じ込めた高温のプラズマ中には、大小様々な大きさの渦を伴った流れである「乱流」が発生します。そして、この乱流によってプラズマがかき乱されて、閉じ込めていたプラズマの熱が外へと流れ出し、プラズマの温度が下がってしまうことが問題になっています。この問題解決のためには、プラズマ中の熱と乱流の特性を理解する必要があります。

熱と乱流の関係を詳しく理解するために、実験ならびに計算機シミュレーションを用いた研究が数多く進められています。しかし、プラズマの乱流は非常に複雑なため、未だその全容解明には至っていません。特に、発生した乱流がプラズマ中をどのように移動するのかについては、微細な乱流の時間変化を高い感度で極めて詳細に計測する機器が必要であるため、十分には理解されていません。

本研究グループは米国ウィスコンシンとの共同研究により新たに開発された計測機器などを用いて、熱と乱流を観測した結果、プラズマ中で熱よりも速く移動する乱流を世界で初めて発見しました。

磁場で閉じ込めたプラズマ中には、中心から外へと向かう熱の流れを止める働きをする「内部輸送障壁」が形成されることがあります。これにより、プラズマの中に強い圧力勾配が形成され、乱流が発生します。本研究グループは、磁場構造を工夫して、この内部輸送障壁を壊す手法を開発しました。この手法により、内部輸送障壁が壊れることで勢いよく流れ出す熱と乱流に注目して、それらの関係を詳しく調べることができるようになりました。

熱と乱流の関係を調べるためには、それらがどれくらいの速さでプラズマ中を移動していくかを計測する高度な機器が必要です。LHDでは、プラズマの乱流と電子の温度と熱の流れを、様々な波長の電磁波を用いて計測する機器を開発してきました。これらは世界最高レベルの性能で、ミリメートルサイズの細かな乱流が変化する様子をマイクロ秒の間隔で計測できます。本研究グループは、これらの機器を駆使して、熱と乱流の移動を計測しました。これまでは熱と乱流は飛行機程度の速度である時速5千キロメートルで、ほぼ一緒に移動することが知られていましたが、今回の実験と計測により、時速4万キロメートルで熱より先に移動していく乱流を世界で初めて発見しました。この乱流の速度はロケットの速度に近いです。

本研究では、プラズマ中で乱流が熱よりも極めて速く移動するという、乱流の新たな特性を世界で初めて発見し、核融合プラズマの乱流の理解が飛躍的に進展しました。本成果は、予兆となる乱流を観測することで、プラズマの温度変化を予知できる可能性があることを示しています。今後、これを基に、プラズマの温度をリアルタイムで制御する手法の開発が期待されます。

本研究は、核融合科学研究所の釼持尚輝助教、居田克巳教授、徳澤季彦准教授らの研究グループと米国・ウィスコンシン大学のダニエル J デン ハートッグ教授との協力によって進められました。

この研究成果は、国際的なオンライン学術論文誌「サイエンティフィック・リポーツ」に2022年5月16日付けで掲載されました。

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