研究成果

プラズマの磁気島内部に浸透する乱流

核融合科学究所の大型ヘリカル装置(LHD)で考案した「瞬時加熱伝播法しゅんじかねつでんぱほう」を米国のトカマク装置(ダブレットIII-D)に応用し、米国の共同研究者と共に、 乱流が磁気島内部に伝播するという現象を観測しました。核融合を目指した磁場閉じ込めプラズマでは、温度・密度の上昇に伴い乱流が発生することは よく知られていますが、この乱流が伝播するという性質を持つことを初めて実験で発見しました。

上図:プラズマの断面図(三日月状の部分が磁気島) 下図:プラズマ温度の半径分布で平坦部が磁気島の部分。温度勾配がゼロとなる磁気島へ向けて熱パルスを送った時の乱流(赤)と熱パルス(青)の伝播の様子。 乱流が先行し、熱パルスが後を追いかける様子が示されている。

核融合発電の実現を目指して、高温のプラズマを磁場で閉じ込める研究が世界中で行われています。加熱された高温のプラズマは、中心で温度が高く外側で低いという温度の差(温度勾配)があります。中心の温度が更に高くなり温度勾配が急峻になると、そこで乱流が発生し、中心部のプラズマの温度を効率的に上げることができなくなってしまいます。このため、乱流の発生や抑制に関する研究が、世界中の磁場閉じ込めプラズマ実験装置(トカマク型及びヘリカル型)で行われています。 これまでの研究でプラズマの乱流は数多く観測されていますが、乱流の発生場所を特定するのは困難でした。発生した乱流がプラズマの他の領域に広がる「乱流の伝播」という現象は理論的には予測されていましたが、実験で観測されたことはありませんでした。

本研究チームは、大型ヘリカル装置(LHD)で考案した「瞬時加熱伝播法しゅんじかねつでんぱほう」を米国のジェネラル・アトミックス社のトカマク型核融合実験装置ダブレットIII-Dに応用することにより、世界で初めて「乱流の伝播」を実験で観測しました。「乱流の伝播」を検証するために、プラズマには磁気島という温度勾配がゼロで乱流が 発生しない特別な領域での観測に挑戦しました。その結果、乱流が発生するはずのない「磁気島の領域」で乱流が存在すること、しかもその乱流は温度変化よりも先に磁気島の中心に伝わることを発見しました。この実験結果は、乱流の伝播を抑制すれば、乱流を発生した場所に閉じ込めることができるということを実験的に実証しました。これは乱流の発生自体を抑えるのではなく、その伝播を抑えて乱流を閉じ込めるという新しい発想につながる成果です。

本研究は、核融合科学研究所の居田克巳、小林達哉、大野誠らの研究グループと米国のジェネラル・アトミックス社のトッド・エバンス博士、ジョージ・マッキー博士との協力によって進められました。

この研究成果の速報は2018年6月12日付けの米国物理学会の学術論文誌「フィジカル・レヴュー・レターズ」に、総括は2019年10月24日付けのプラズマ物理学に関する国際的な学術論文誌「プラズマ・フィジックス・アンド・コントロールド・フュージョン」に掲載されました。

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